北新地「パパ・ヘミングウェイ」の28周年。
2010年 10月 20日
北新地のパパ・ヘミングウェイのママ、中野良子さんは詩人で、これまでずっと素敵な詩を書き続けて来た人だ。この店はマスコミ関係や文筆家の客が多く、この日集まった常連たちは口を揃えて「放ったらかしにしてくれる気楽な店」とこの店を高く評していた。
最近はそんなに行かなくなったけれど、ボクが最初に行き出したのはもう二十数年前に遡る。情報誌出版社の駆け出し広告マンだった頃で、誰だったか先輩に連れて来られた記憶がある。そこから今の歳になるまで、思い出した頃にふと一人で立ち寄る店になった。
上通りに移る前は2号線沿いのスタービルにあって、店にはいつもゲン太という犬がいて、眠そうにボクら酔っぱらいを見ていた。ゲン太が行方不明になってしまって、しばらくたってハナという犬がこの店にやって来た。ハナはみんなの人気者で、いつもボクはハナの横で飲ませてもらった。
そのハナが数年前に亡くなって、中野良子さんは随分悲しんだみたいだ。
いつも彼女の詩が綴られたDMを頂いていたのだけれど、ある頃を境にぷっつり来なくなってしまった。
「最近、あの詩のハガキ、やめたんですか?」
と問うボクに、良子さんはこう答えた。
「恋が終わったら、途端に書けなくなったのよ」と。
それは誰とどんな恋だったのか? ハナだったのか、それとも…。
一年半前、突然良子さんから電話があった。
「来年、28周年の記念の会でワタシの詩の朗読会やるの。イシハラくんに読んで欲しい詩がふたつあるの」
そうして何度かのリハーサル。
著名作家から名アナウンサー、そしてボクや140Bの青山など、8名の朗読者が集まった。
朗読会当日、店内にはブルーハーツの「1001のバイオリン」がずっと流れていた。
「ずっとおんなじ曲だね」という参加者達に
「今日は悪いけど、この曲かけ続けるからね!」と中野良子さんは笑った。
この日彼女の詩を詠んだ人々は、何だか訳がわからないけど、良子さんの決意(みたいなもの)を肌で感じた人ばかりだったと思う。
ボクは彼女がこの日のBGMにセレクトした曲が「1001のバイオリン」だった事に深く納得した。
詩人はやっぱりロックなのだ。文学もロック魂がないと書けないし書く理由が無い。
「もういいや!」では何も生まれない。
中野良子さんに言葉ではない大きな事を教えてもらった素晴らしい一日となった。