イシハラマコトのマンボな日常へようこそ☆


by nestvision
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『星々の悲しみ』 宮本 輝/著(文春文庫)

久々に輝さんを読みたくなって、短編集を読了。
この短編集には表題作を含め7編の短編が収められている。1984年初版で現在38刷り。ほぼ近代のスタンダードとなり得る”お手本短編”といえる。

凄いです…ホンマ。

*「星々の悲しみ」
二十歳で死んでいった画家、そしてその作品。予備校で出逢う友人たちと、性衝動なのか恋なのかわからない女子大生への想い。まさに輝さん文学の真骨頂。どうしようも無いのに希望が湧くというパラドックスな視線が輝さんの武器だと思う。

*「西瓜トラック」
青年と西瓜売りの男。性のよろこびと侘びしさを夢想するしかない純粋な感性。夏のスケッチを見るような清々しさがとても印象深かった。スケッチは水彩画って感じね。

*「北病棟」
ほとんど廃院寸前の結核病棟。残った患者は24歳の僕と、58歳のおばさん。自分は退院しおばさんは亡くなってしまう。それまでのエピソードと周囲の人々が、ものすごく人間くさい。まったく暗くない希望の好編。

*「火」
単なる電車に乗った数十分を、ここまで描けるのかと唸る。そのイメージは初期の江戸川乱歩であったりして、湿った質感がとても良かった。なるほど、短時間を膨らませるとはこういう事なのか…と、膝を打つ。

*「小旗」
精神病院で亡くなる父が言う言葉。「三角、三角…」自分は借金で一家離散を余儀なくされたくせに、女とアパートに逃げ込んで暮らしていた父。末期の闘病中にその女は、父と同室の男と出来る。男性にとっての三角関係は女性のそれと違って、”破壊”を意味するのだ。そういう情感を一言で描ききるところに、また感動。

*「蝶」
僕はこの小品が一番好きだ。蝶の収集を趣味とする理髪店の店主と僕の物語。百鬼園先生の短編に出てきそうなイメージの暴走がとても素敵。

*「不良馬場」
なんとも後味の悪い読後感。結核療養中の友人の妻と不倫関係にあった僕が、その友人を見舞う。そこらの心理を友人から見させるなど、ものすごくグロテスク。男の嫉妬、未練、達観…というテーマを人間味を失わずに表現されている。

☆やっぱり宮本 輝は僕のアイドルの一人だ。巧いという褒め言葉はもはや失礼だと思う。彼の文体に流れる庶民感みたいなものが、一番素敵なエッセンスなんだが…。
by nestvision | 2006-09-24 15:43 | 読みました!review